※ w部分は文章をあとで絶対に手直しするところ。 ※ ?部分は記憶が曖昧で、実際と同じかどうか確認するところ。
◆想いありてなお・3◆
ある日の夕方。
珍しく残業をしていたアリーが、夕日で赤く照らされた部屋の中でひとり書類と格闘していたとき。
玄関に、人影が現れた。
「……どなたですか?」
「……」
返事は帰ってこない。
窓からは、背の高い男の影が赤く照らされている。
アリーは、念のため電光の準備をしながら、おそるおそる戸を開けた。と同時に、その男は倒れかかるように中に入ってきた。
「(……遅かった? いけない……!)」
平常に慣れすぎていたアリーは、電光の呪文を唱えるのが一瞬遅れた。が、その間に男のマントが目にはいる。それは汚れ、すそはすり切れぼろぼろになっていた。が、かつて彼女が良く目にしていたものだと気がついたのだった。
そのすそには、かつてよく目にしていた夜空の金星を刺繍したあとがあったから。
「まさか……シャルル?」
「ただいま、姉さん」
そのまま倒れるようになだれ込むシャルル。アリーは、かつて、飛んでくるwブレンダを支えていたように、オトナになったシャルルをも支えた。
彼が極度に疲労しているからか、その体はとても重く感じた。
しかし、それだけではなかっただろう。すでにシャルルも20歳になっていた。その背は、すでにアリーよりも頭ひとつ高くなっていたから。
自分にもたれかかる大きくなったシャルルを見て、アリーは息をのんだ。
その顔が、フランツによく似ていたのだ。
正しくは、フランツが、確かにシャルルに似ている、と彼女は感じた。
その刹那、自分がフランツを通じて、誰を見て、誰を愛していたのかを理解してしまったのだった。
私は、ずっとシャルルを愛していたの?
姉弟の愛ではなく?
いえ、姉弟の愛と思っていたのに?
むしろ、離れてしまったことによって、彼の存在の大きさに改めて気づいてしまったのか?
と。
「シャルル……長い間どこに……」
「いろいろ、さ」
口元に軽く笑みを浮かべながら、シャルルは自由が利かない倒れそうな体を、アリーにもたれかけた。アリーはその重さに動けなくなりそうになりながらも、なんとか室内にシャルルを導く。
「こんなに疲れて……大変だったのね……歩ける?」
「ああ、大丈夫……自分の選んだ道だからね……」
少し的外れな返事をしたシャルルを子供用のベッドに座らせようと、アリーは抱えるようにして奥の休憩室に入れた。
どすん、と、倒れるように座りこむシャルル。
「今、お茶か何か用意するから、少し待って」
アリーはお湯を沸かせようと立ちあがろうとする。
が、シャルルはアリーの手を握った。
シャルルの目が、アリーをとらえる。
それは、大人の男の目だった。
「アリー」
「……」
アリーは鼓動が早くなるのを感じた。
夕日が彼女の頬を照らす。彼女は彼から視線をはずし、話をそらすため質問をした。
自分は姉なのだ、と、自分に言い聞かせて。
「……これからは一緒に暮らせるのね?」
「……」
「私の家族にもシャルルを紹介しなければならないし」
「結婚したんだってね、おめでとう……でも、今日は少し寄っただけなんだ、また行かなくちゃならないんだ」
「そう……でも、今晩は泊まっていけるでしょう? こんなに疲れているのだし……晩御飯何か作るわね。一眠りしたら、あなたの好きなポトフか何か……」
「いや、ここには泊まれないよ」
「どうして? こんなに疲れて……」
最後まで言い終わらないうちに、シャルルはアリーの手を握ったまま、ぐいと引っ張った。そして、倒れこむアリーを抱きとめる。
「シ、シャルル?」
「姉さん、いや、アリー」
「……」
「僕ではダメだろうけど……」
「ダメって、まだ何も……」
いちいちうるさいアリーの口を、シャルルは口でふさいだ(笑)。
「ブレンダ姉さんからは聞いてた。アリーがもう結婚したってこと」
「……」
「僕は……6年前、アリーに待っててくれなんていえなかったんだから、当然のことだとは思うよ」
「だって、あなたは弟……」
再度シャルルは彼女の口をふさぐ。
「弟以外には見てもらえませんか?」
「……」
「僕は、今でもあなたのことが好きなのに」
「シャルル……」
「あなたを、こんなに好きなのは、伝わらないですか?」
そのまま、彼女の手を強く握るシャルル。
その手を、アリーは振りほどけなかった。
アリーは、初めて、その夕暮れにあった出来事を日記に記さなかった。
嘘をつくことができない彼女が、初めて、「沈黙」という嘘をついたのだった。
◆ ◆ ◆
結局その日の未明、シャルルはかつての3人の家から再び旅立っていった。
彼は、少しだけ仮眠を取ったあとに、出かける支度を整えながら話をしていた。
今まで、どこにいて、どのようなことをしていたのか。
源人の秘密。自分の血。そして、そのなせること。制御するための方法。
しかし、今なぜバドッカに戻ってきたのかは一切口に上らせなかった。
まだ大きな仕事を抱えている、と告げただけだった。
「本当は、右目にはよらないつもりだった。あなたに会いたくなってしまうから。でも……」
そういうと、まだ起き上がれないアリーのに肩に口付けをした。
「結局、戻ってきてしまった」
「……」
「戻ってきて、あなたの顔を見て、触れて……よかった」
「どこにも、いってはだめよ、シャルル」
「だめだよ、アリー。僕がいては、きっとフランさんとはうまくいかなくなる。それを望んでいたわけじゃない。僕は、自分の気持ちをアリーに伝えたかっただけ」
「……」
その後、いつかのように、ふいにシャルルは出かけてしまった。
アリーは、しばらく、誰もいないかつての家にいて、複雑な思いを抱きながら空を見つめていた。
それからしばらくして、アリーは、シャルルの子を身ごもることになる。
Copyright of Lil Kitty, 2001-2005.
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