Gu02
◆日月記◆
02


◆想いありてなお◆

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◆5









      
日月記


※ w部分は文章をあとで絶対に手直しするところ。
※ ?部分は記憶が曖昧で、実際と同じかどうか確認するところ。



◆想いありてなお・2◆

シャルルが去り、ブレンダがテューレと共に去り。
アリーは、一人だけ残った家と、サリカ神殿の往復をする毎日を過ごしていた。
テューレとブレンダのおしどり夫婦は、あっという間に家族の人口を増やしており、気がつけばすでに五児の母になっていた。
アリーのテューレへの想いは、成就できないとわかったと同時に、徐々に熱を失っていった。今では彼のことを「ブレンダの夫で、5人の子供たちの父」としてしか見えなくなっていた。
あんなに何年も想い続けたのに、気持ちは変わっていくものなのだ、と、当人のアリーでさえも不思議に感じるほどであった。

シャルルの消息は未だ分からず、また、便りのひとつもなかった。最初の頃に風の噂でバドッカを出たと聞いたのだが、それ以降はそれさえも耳に入らなくなった。
アリーが家を引き払わず、大きな家に独り残っていたのは、シャルルが戻ってきたときのためだったのに。
彼が家に帰ってきたときに、抱きしめて迎えてやる者が必要だと思い、待っているのに。


けれども、アリーには、心のどこかで戻ってこないことも分かっていた。戻ってくる必要がないからだった。
彼がここに戻ってきたとしても、もうどうにもならない。ここにはもう「家族」は誰もいなのだ。
ブレンダは、すでに家を出ている。
アリーは……彼にとっては姉ではなく、結ばれることのない「恋人」だったのだから。もし二人が結ばれるようなことがあれば、それは源人を生み出すことを意味しかねない。シャルルは、確かに六年前「こんな血は絶やさなければならない」と言って出かけた。ならば戻ってくることはないだろう。
もし、帰ってくることがあるならば、アリーがテューレに対する熱を徐々に失っていったように、シャルルもアリーを「家族」として見ることのできる冷静さを身につけたときだろう。

それはアリーにも分かってはいたのだった。
分かっていると自分に言い聞かせてきた。

けれども、どこかで、シャルルの強いまなざしを忘れられずにいた。
その一途さに恐れながらも、惹かれずにはいられなかった。
アリー自身が、シャルルに弟以上の感情を持っていたこと。
それに、気づいてしまったのだった。

しかし、その気持ちが許されないものであることは、アリーが一番よく分かっていた。
分かっていたからこそ、ガヤン信者のフランツからの結婚の申し出を受けたのだった。

「アリーさん……僕は、特に何の取り柄もない男です。ですが……あなたが好きです。その気持ちだけは、誰にも負けないつもりでいます。だから……結婚してください」
「フランツさん……ありがとうございます……ふつつかものですが、どうぞこれからお願いいたします」

フランツはまじめな青年で、ガヤン神殿の事務担当だった。やや時間にうるさい点を除けば、何の申し分もない良い夫であった。
結婚後、アリーはフランツの家族と住み始めたが、元の家は残しておいた。
サリカの寺院が手狭になったので、幼稚部だけ寺院から分離し、シュテロッチ家を利用することになったのだ。
一説には、ブレンダの5児が手狭な原因であったらしいが。

そして1年後、アリーは栗色の髪を持つ男児を出産した。
アリーはその子に「シャルル」と名づけた。

その日の日記には、こう書かれてある。

とても安産とは言えず、長く私は苦しみました。
その苦しみは、昔、源人の体内で呪縛にあったときのような苦しみでした。
解き放たれた瞬間、ようやく自分の視界が開けたときに見えたのは、自分の子でした。
彼を見て、私は、はっとしました。
シャルルが、ここにいる、と。
髪の色こそ違えど、昔のままのシャルルがここにいるのだと思えたのでした。

そして、私はシャルルを愛せなかったかわりに、この子を愛そうと決めたのです。

サリカ様、私にこの子を授けてくださって、本当にありがとうございます。
私は、私の愛を、この子への愛といたします。

◆ ◆ ◆

その後も子連れのブレンダは、何度もアリーの元を訪ねていた。
今では結婚したアリーが、まだもとの家を手放していないこと。
そこを仕事場にしていること。

そして、アリーの心の奥にある、シャルルを待つ気持ちをおぼろげながら察していたから。

「お姉ちゃん……シャルルを探しに行かなくて本当にいいの?」
「いいんです、シャルルも今頃は17歳でしょ。あのころの私たちと同じ年齢だもの。自分で判断できるようになっているはずよ」
「そんなことでいいの?」

それは、5年前のパーティーの時に、ナギにも聞かれた言葉だった。
けれども、アリーは、自分で判断をしたシャルルを信じる、として探さないといったのだった。
自分が探しに行っている間に、シャルルが戻ってきては困るから。
「もう! そんなこと言ってたら、いつまでたってもシャルル見つからないじゃない!」
「でも……」
「あたし、5年前、シャルルがお姉ちゃんのこと好きだって聞いて、すごくショックだったんだよ」
「……」
「あたしだけのけ者にして……って、そのとき思ってた。でも、お姉ちゃんとシャルルが、あたしに内緒でこっそり付き合っていたはずはないと思って」
「ブレンダ……」
「だから、ちょっと悲しくなって、あのときテューレと結婚したんだから…もちろん、今はシアワセだからいいんだけどね」
「そうだったの……」
「もういい!わかった!お姉ちゃんが探せないなら、アタシが探し出す! シャルルに、いい加減戻って来いいって伝えに行く!」
「ブレンダ!何を言ってるの、あなたには子どもが……」
「お姉ちゃんこそ何言ってるの!お姉ちゃんができないなら、アタシがやる! 大丈夫、1年で探しきってみせるから!」
「そうじゃなくて、ブレンダ、落ち着いて、あなたの子どもたちはどうするの?」
「お姉ちゃんが見てくれればいい!他の子と一緒に元気に育てばいい!」
「ブレンダ、もう、そんな……」
「まってて、たぶんお姉ちゃん探しに行くより、アタシが足で稼いだ方が絶対に早いから!」

そういうが早いか、ブレンダはもの雷神のようなイキオイで、冒険の準備をし、夫と二人で旅だっていった……。

「これって……2度目の新婚旅行?」

◆ ◆ ◆

アリーの子育ては、大変に忙しいものであった。
自分の子シャルルの他に、ブレンダの5人の子どもたちの面倒も見なくてはならなくなったから。
だが、忙しいことは自分の想う時間を減らしてもくれた。
それがアリーには必要なことだったのかもしれない。


そして、ブレンダとテューレが半年後に戻ってきた。
アリーにもたらされた知らせは、あまり芳しいものではなかった。
弟のシャルルには会えた。
が、彼は戻って来る意志はない、というものだったから。

家を残しておく必要はなかった。
すでに、アリーのもとを去っているのだから。

ただ、ブレンダは、
「あの子、結局ガヤンに入ったみたい。お姉ちゃんのことがまだ忘れなれないのかもよ」とだけ、アリーに告げた。

◆ ◆ ◆

かつて、どの月を信奉したらよいかシャルルに相談されたとき。
アリーとブレンダは、シャルルの能力を考え、ペローマの神殿で勉強をすることを勧めた。
が、シャルルの考えは違ったのだった。
「ガヤン様の神殿で、おつとめをしたいんだ」
当然、体の弱いシャルルがつとまるはずもないと思っていた姉二人は、その言葉を一蹴したものだった。
「だめだよシャルル、あんたは体が弱いんだから」
「そうよ、ブレンダのいう通りよ。体を使うことが少ない方が、シャルルも長続きするわよ」

それでも、シャルルはガヤン信者になることを強く望んでいた。
それも、シャルルは、アリーがガヤンの信者を尊敬していることを知っていたからだった。
憧れ。

アリーは返事ができなかった。
心からシャルルに会いたいと思っていた。

自分が恋愛をして、結婚をして、初めて、シャルルがどれほど大切かを知った。
すでに、遅いけど、と自分に言い訳をした。
だから、帰ってきてもしょうがないの、と。

◆ ◆ ◆

夫のフランツは、ガヤンの信者で、事務をつかさどる部署に勤めている。
それほど忙しい部署ではないものの、それは他の激務の部署との比較であって、日が暮れたからといって、毎日すぐに帰ってこれるというものではなかった。

その日、アリーは、日記をつけている途中で寝てしまった。
しかし……次の日には、その日記はサイドテーブルに置かれていたのだった。

「(私、寝る間際に自分でサイドテーブルに避けたのかしら? ……それとも、フランが片付けてくれたの? ……中身、彼は読んだのかしら?)」

しかし、その日のフランの様子は何も変わらなかった。
いつものやさしいままだった。
ならば読んではいないだろうと思い、安心したのだった。

弟に対する思慕の情。
とはいえ、日記は、いつでもシャルルのことについて書かれていたから。
理解してもらえるかどうか、自信がなかったから。

いつか、フランには伝えなければと思っているうちに、さらに1めぐりの季節が過ぎていった。





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