探偵社が暇なことは、決して悪いことではない。
世の中が平和であることなのだ。
しばらく大きな仕事がなかったある日、趣味のグラス磨き(仮)を丹念にしていた八代だったが、ぽつりと、
「今日は雲行きが怪しいな」
とつぶやいた。
今の天気は晴れ、そして、今日の天気予報も晴れ、にもかかわらずである。
◆ ◆ ◆
その日、午前中に電話でアポがあり、すぐさま午後に上質のスーツを着た男が八代探偵事務所にやってきた。年のころは50過ぎで、堂々たる風格の持ち主。彼の差し出す名刺には、「北稲穂高等学校校長」と書かれていた。「小柳先生のご紹介で・・・」と口を開いたその男は、すぐさま1枚の紙切れを八代に差し出した。
「宿泊研修で、3にんの女を殺す。これは復讐劇のはじまりだ。」
ノートの切れ端のような紙に、お世辞にも上手とは言えない字。
「何ですか、これは。」と八代が聞くと、校長は「もちろんこんな悪戯を信じちゃいないんですけれど、念のために」と前置きし、八代にその内容を依頼した。
校長が八代に依頼したのは、「事件を未然に防ぐこと」の1点だった。八代にとって受ける筋合いもメリットもさしてない仕事であったが、校長が言った言葉が、彼に火をつけた。
校長:「・・・念のためとはいえ、こちらはあなたに金を払うんですから、『役に立たない』というのは勘弁してもらいますよ」
八代:「・・・やらせていただきましょう。(八代:エゴ【不要な機械と思われたくない(恐怖)】)」
その頃、「八代探偵事務所」の助手でもある瞳は、大学で友人・阿久津真理からバイトの誘いを受けていた。バイトの内容とは、高校生の宿泊研修に利用される施設のボランティアだった。半ば強引に約束を取り付けられた瞳は、その後、探偵事務所にて八代の受けた内容との偶然に、驚きつつも準備をするのであった。
◆ ◆ ◆
桜木春華は、宿泊研修に行くのをためらっていたが、ホストのあきら(本名:志狼)とフケる(死語?(笑))予定であったが、あきらが女子の部屋の前で生徒に見つかり、大騒ぎ中であった。
瞳:「どうしたんですか?」
さくら:「あ、瞳さん、今窓の外に男の人が・・・。」
春華:「遅いなあ・・・あきらさん、なにやってるんスかね。ケータイしてみよう」
春華があきらの携帯を鳴らすが、すでに狼に変身した彼は、すでに服や携帯を置いて逃げていた。追って出てきた八代が、彼の電話に出る。
(携帯電話の呼び出し音)
八代:「はい、八代です。」
春華:「っていうか、これ、あきらさんのケータイっス(笑)。」
◆ ◆ ◆
あきらが逃亡、八代と春華が合流?瞳が犯罪者用監視カメラの設置、さくらが他の生徒をなだめている間、第一の殺人が起きていた。女子生徒の悲鳴に気付いた八代と瞳が1階階段下にかけつけ、女子生徒に事情を聞く。
生徒:「子供が・・・変に青白い顔の子供が2階から降りてきて、この花瓶に・・・」
八代はすぐ2階へ上がり、子供の姿を追う。
しかし、この短い間だが、子供などはどこにもいなかった。
不審な行動をしていたのは、小柄な男子高校生が一人。
瞳は大きな壷を調べようとした。いやに赤い花が気になり触れてみると、花瓶に入っていた水が異臭を放つ。花を除いて水の正体を探ると、大きな花瓶の中から、血まみれの手が出てきた。続けて、二の腕、足、太股、毛髪、うつろな目をした首・・・それらが引き千切られたように、血の海に浸かっていた。
その時、八代に調べられていた男子高校生が、2階窓からガラスを割りて庭に飛び降りる。
八代:「・・・!!」
その生徒の正体は、子供のような吸血鬼だったのだ。彼の姿を見たあきらと春華は、吸血鬼を囲む。
子供は、ガラスで切れた頬の血を舐め、何かをつぶやいた。そして、あきらと春華にその長い爪と牙で襲い掛かる。
あきら:「おっと、何しやがんだ、てめえ!」
吸血鬼:「・・・。」
すかさずあきらはカウンターをくらわすが、吸血鬼は優雅なしぐさでその攻撃をかわす(吸血鬼:技【貴族の余裕(肉体)】。)
同じく2階から飛び降りてきた八代が叫ぶ。
八代:「そいつは殺人鬼だ!!」
1階からは、設置したカメラからの情報を得た瞳もやってきた。
吸血鬼は狂ったように2人を攻撃する。だがしかし、人狼と竜、そして機械人形と寄生体の前では、彼のあがきも無駄であった。八代こと八十八式鉄人兵士改の無情なる攻撃の前に、吸血鬼は地に落ちた。
吸血鬼:「僕はただ、好きだったあの人に復讐したかっただけだったのに・・・
僕を見てくれなかったあいつらを、見返せればよかったのに・・・。
煙と消えていく吸血鬼。とどめこそ刺さなかったものの、「かりそめの死」を迎えたそれは、恨み言を残し、どこかへ向かって帰ってゆく。
人魔に、帰る先などあるだろうか。
八代が自嘲気味につぶやく声は、研修学校の森の、重いぐらいの静けさにかき消された・・・。
◆ ◆ ◆
ジリリリリリリ・・・・・
八代:「!?」
彼は、場にふさわしくないベルの音で我に帰った。目覚し代わり(充電完了時の合図)に使っている事務所の時計の音だ。
気がつけば、自分は事務所のソファに座っていた。そこではじめて、自分が充電をしていたのを思い出した。
八代:「夢・・・夢?」
どうやら八代はうたた寝をしていたらしい。夢の中で依頼を受け、夢の中で人魔を手にかけていた。
八代:「夢・・・なのか? (早口で)俺が夢を見たというのは、俺が製造されてからこの10
数年で初めてのことであり、まったくもって希有の事象であり、研究の対象として非常に興味深い出来事で・・・<人間性が高いとよく喋る」
自動人形の自分が夢を見る。なんと不思議なこともあるものだろう。
時間を見る。午後3時50分。4時には瞳と、警察庁資料編纂課の岩田が来ることになっている。ハッカー退治の依頼だ。
八代:「さて、仕事だ・・・。」
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